【現場インタビュー】株式会社竹中工務店 小坂茂訓さん、大川修一さん②

 
【竹中工務店 小坂さん】

前回に引き続き三鷹天命反転住宅の施工を担当されている、株式会社竹中工務店作業所長 小坂茂訓さんと工事担当 大川修一さんのインタビューをお届けいたします。

 

◆実際の作業を通して ~現場責任者として気を使ったこと~

ABRF 現場を管理されるお立場として、様々なご苦労があったと思いますが、いかがですか。

小坂 まず最初に挙げたいのは、床や壁が平ら・直角でないと言うことです。我々が現場を管理するという非常に重要な要素の一つとして安全というものがあります。そして、我々の使っている工具や機械というのは水平な場所に立って、もしくは置いて使用するように出来ているんです。そういった意味で水平でない場所で作業するというのはですね、常に働く人間が注意をし、危機意識を持っていないとすぐに怪我につながってしまうんです。その辺に常に気をつかっていた、重要な点の一つだと思っています。

ABRF確かに球体の部屋には、機械は置けないですね(笑)。

小坂 ええ。丸いというのもどちらが中心でどちらが端っこかというのも非常に分かりにくくて、作業の動きというのも影響してくるんです。我々の仕事というのは後ずさりながら作業する仕事というのがあるんですね。例えば、今まで施工してきた従来のタイプの間取りですと、もちろんその個々の違いはあるにせよ、感覚的に自分がどの辺にいるか分かるんです。ここが端っこだよとか、ここから先は危険だよということが目で見なくても感覚的に分かるんですね。ところが今回は、部屋の間取りも特殊性が強くて、ダイニングキッチンを中心に、小部屋がその四方に配置されている。また地面がうねっていたり、さらには円筒形や球体という部屋もあることからですね、作業員の動きも感覚的でなく、しっかり自分の位置を把握して作業しなくてはなりません。丸い部屋だと自分も回らないと作業できませんね(笑)。そういった意味で、非常に不安定な環境の中で仕事をしていますので、いかに怪我をさせないか、というのが管理の中で今回特に重要な要素になっています。

大川 今まさに小坂が言っていたのですが、ユニットプレキャストコンクリートを構築していたときに、まず最初に周囲やベランダの手すりを先行して設置したというのはそういうことなんです。丸い、もしくは床のうねった建物で後ろに下がっても危険がないように、作業員が作業を始める前に手すりを先に設けているというのが、作業の中で考えたところです。

ABRF 実際の作業に入って、その中で気づいたことを実践していくということですね。

大川 まさにその通りです。そういった臨機応変は数え上げたらきりがないですね。

 

◆品質を守るために ~工夫とやり取りの中で~

 


【三鷹現場にて】

ABRF 集合住宅の建築となると、それこそ多くのメーカーとの関わりがあるとおもいますが、今回のプロジェクトで特に何か感じたことはありますか。

小坂 そういった各メーカーとのやり取りのところにくると、我々の仕事の中で特殊なものというのはありません。規模としてもっと大きなプロジェクトになると、はるかに多くのメーカーとのやりとりが出てきますので、そういったものを積み重ねていく、という形になりますから、今回に限って特殊だというものはありません。

ただ、先ほどからも話題に出ているように、そのメーカーの製品をいざ取り付けてみて、先生のイメージや、お考えになる機能性と合致しているかというのは我々には判断できないんです。ですが普段先生はニューヨークに住んでいらっしゃいますので、例えばあるメーカーの製品を検査をしましょう、ということになっても、先生が実際に検査に伺うことは出来ません。例えば大川が見に行きました、でもそれは先生の替わりにはなれません。ですからそこで合格といっても、実際にできあがったものを先生が見たときに、それは違う、と言われればそれで全部足元をすくわれてしまうわけですね。その辺が、常に心配としてあるわけです。ですから、そういった製品に関しても、来日時にひとつひとつ先生に確認してもらう。先ほどお話した「試作施工」の考えとまったく同じですね。

今回の仕事の上での「品質を守る」という意味は「先生のイメージを守る」ということが、非常に重要な要素であるわけですから。

 



【三鷹現場にて】

大川 品質を守る、という意味では、「水平・垂直・直角」これにとても苦労しました。「水平・垂直・直角」があると非常に品質を判断しやすいんですね。例えば少し曲がっていると、「こっちが下がっているぞ」というのが目で見てもある程度分かるのですが、壁が曲線を描いていたり、床がうねっていたり、もしくは潜っているので、例えばここに立って「これが直角だ、これが平行だ」というのが非常に出しづらいんです。

ABRF 基準点がないということですね。

大川 そうです。僕らは絶えず一つの基準を見据えながら、「右だ、左だ、上だ、下だ」という指示をしています。ところが基準が非常にあやふやで、あることはあるんですが、通常と違う基準になっていますので、物事の観点と、指示の仕方が非常に難しかったことがよくありました。例えば床からの垂直、床が平らならば、床から1mという指示ができるのですが、床に勾配があるために、床の高い位置から1mなのか、床の低い位置から1mなのか、そういうことが分からないんですね。

ABRF そういった場合での作業員の方たちへの指示などはどのようにするのですか?

大川 例えば、床がこう斜めになっていて、その傾斜がどこまで続くのかを指示する、というのがあるとしますね。傾斜は先生の感覚的な斜面ですから、その立ち上がりがどこまで見えるようになって、どこで終わるのかというのを作業員に伝える時には、例えば「この辺で消えていく」といったような指示をします。この「消えていく」という言葉、それから「沈んでいく」という言葉、それから「ず--と上がっていく」この不思議な三つの言葉を、この現場ではよく使っているんですね。

小坂 それは建築用語ではないんです。ここの現場の特殊な用語として使っているんです(笑)。ですから先生に来て頂いた時に、例えばこの床のうねった形を、手で表現されたり脚の動きで表現されたりしたものを、試作施工したひとつの部屋で仕上げて、先生に見てもらうというプロセスなんですね。それにOKがでれば、他の部屋にも同じようにやればいいという、ひとつの「基準」ができるんです。その「基準」こそが品質を守るための、重要な手掛かりですね。それでもなお、全室が特殊なものですし、先生はそれぞれ個々の部屋にも特殊性を持たせたい、という意向もお持ちですから、そう単純にはいきませんが(笑)

最終的には、我々が先生から聞いた言葉を、どれだけ把握して現場全体の共通理解にできるか、ということにかかっている。ですから、ある意味我々は先生の仕事の伝道者ですね(笑)。

 



【三鷹現場にて】

2005年7月25日 三鷹天命反転住宅現場事務所にて
インタビューの模様は第三回に続きます