【現場インタビュー】株式会社竹中工務店 小坂茂訓さん、大川修一さん③

【竹中工務店 小坂さん、大川さん】

 

三鷹天命反転住宅の施工を担当されている、株式会社竹中工務店作業所長 小坂茂訓さんと工事担当 大川修一さんのインタビュー最終回をお届けいたします。

 

◆三鷹天命反転住宅が生み出す今後の可能性

ABRF 荒川修作の考える建築コンセプトについて、長年建築に携わってきたお二人は、どのようにお考えですか。

小坂 我々建築に係わる人間はですね、ある意味では生産性というものを大切にしています。それは企業でもありますし、ビジネスでもありますから、同じものを沢山作ることによりコストダウンを図ったり、工期を短くしたりといった方向を追求する、というのが一般的な考えとしてあります。

しかし今回、カルチャーショックというか、先生は、そういったものだけを追い求めるのはいけない、とおっしゃるんですね。また、人間の住居ですから、常にそこに住む人の事を考えて進めなくてはいけないと、そういうことを言いたかったのだと思います。かつての日本の家がそうだったように、ひとつひとつの部屋が住む人によって違ったり、また形によって人の動きも変わったり、といったところに主眼を置いているのだと思います。そのきっかけとしてこの三鷹天命反転住宅はあるんだ、という意味合いを先生のお話の中から感じました。

【三鷹現場にて】

大川 私は先生のお話や、実際現場で出来始めている部屋を見て、強く思うことがあります。それは、日本的とかアメリカ的とかではなく、それらのそれぞれの長所や特徴をミックスして融合したものを表現したいのではないか、と感じています。本当の意味での合理性ですね。例えば先生のお若いときに感性を磨いたいにしえの日本の、「タタキの土間」や「畳の部屋」、「障子」や「敷石」などを入れたかと思うと、近代アメリカのいい意味で完成されたもの、例えばユニットシャワーを使ってみたり、ダイニングキッチンを部屋の中央に持ってきたり、そういうごちゃ混ぜになっている。さらに、それらに先生独自のアイデア、丸い部屋やカラフルな色使い、窓の大きさが全て違うといった、本当に色々なものをミックスした上で集約している、そういうのを強く感じましたね。だから当初我々がこれを建築するときにどう思ったかといったら、もう頭はパニックです!(笑)

でも、それが実際に出来初めて見てみると、不思議な落ち着きがあったり、空間の広さや、空気の流れを感じるといった、住宅に必要な条件が全て備わっているんです。これは本当に驚きましたね。

ABRF 全景もあらわになりましたが、近隣の方からの評判というのはありますか。

 

【荒川修作と大川さん】

大川 通行人の方々が、皆さん興味を持って尋ねに来るというのはあります。「これは一体何になるのですか?」なんて聞いてきてね。「普通の集合住宅ですよ」と返事するんですがね(笑)。

そういえば現場のすぐ脇にパン屋さんがあるんですが、お客さんが、三鷹天命反転住宅のことをしょっちゅう聞いて来て、「天命反転パン」という三鷹住宅の形に模したパンを作ろうなんて話にもなっているんですよ(笑)。

ABRF 天命反転パン!?

大川 本格的ですよ(笑)。球体や円筒の形をパンで作って部屋の形にして、色もちゃんとジャムとかクリームで色付けしてるんですよ。これも先生の「環境が生活を変える」と常々おっしゃる影響力の一つです(笑)。

ABRF 最後に、三鷹天命反転住宅の現段階までの出来栄えと、完成したらここはぜひ見てもらいたい、もしくは三鷹住宅に対する思いという点をお聞かせ下さい。

小坂 出来栄えと言うか、どれだけ先生のイメージしたものを忠実に具現化出来たかということになるかと思うんですよね。ですから特に、荒川先生に注目してくださっている方々が、これを見て先生の作品じゃないんじゃないかと言われることがないようにまとまっていれば先生のイメージに非常に近いものになったのではないか、と言うふうに思います。私自身が評価するというのはなかなか難しくて、これが出来上がってから色々なところで話題になり、批評されたり評価されたりといった中で、いい作品として残っていけばというふうに思います。

竹中工務店は慶長の時代から始まった歴史の長い会社で、実は「工務店」という言葉も竹中工務店が最初に作りました。私たちは「工務店」という言葉に「ものづくり」にこだわる一種の職人気質のような思いが込められていると考えています。その言葉に恥じない仕事になればいいなと心から思っています。

 

【竹中工務店 小坂さん】

大川 私はいつも最近思っているのは、先生が来日されるたびごとに最初に現場を見た瞬間の、「ニコッ!」とした顔が見たくて、それで仕事しているっていうのはあるんですよね(笑)。その逆で、あるとき天井の配管を見て「なんだこれは!」って言われて怒った先生の顔を見たときは、うわ、これは嫌だ!って思いました。やはり内容に満足して喜んで頂いけたかどうかというのは、どうしても態度に表れますんで、そういうお顔を最後にも見たいなというのがあります。

もう一つは、完成後に「小坂君、大川君、ここはね、本当はこういうのがあってね、こうなるはずだったんだよ」みたいな、次へのステップのアイデアのようなものを生み出すきっかけになってくれて、それを聞ければ最高だなって思います。(了)

 


【竹中工務店 大川さん】

2005年7月25日 三鷹天命反転住宅現場事務所にて

© 2005 Reversible Destiny Foundation. Reproduced with permission of the Reversible Destiny Foundation