【現場インタビュー】株式会社竹中工務店 小坂茂訓さん、大川修一さん①

今回のインタビューは三鷹天命反転住宅の施工を担当されている、
株式会社竹中工務店作業所長 小坂茂訓さんと工事担当 大川修一さんです。図面を実際に住宅へ仕上げて行く過程でのいろいろなお話を伺いました。

ABRF 本日は施工現場ならではのお話をお聞きできればと思います。どうぞよろしくお願いします。

小坂・大川 よろしくお願いします。

 

◆ムズカシイ!

ABRF 三鷹天命反転住宅もかなり作業が進んできていると思いますが、最初にイメージ画を見たときの印象はいかがでしたか?

小坂 私はこの絵を見たときに、そのカタチよりも、それをどういうふうにまとまっていくかということに心配がいって、球体の部屋や色が特殊だということでの驚きは余りありませんでした。むしろ特殊な色や形をどうまとめていくという心配の方が大きかったです。

大川 私はまず色にびっくりしました。その次に、構造図を見て「これは大変だ!」と思いました。というのはこの住宅は基礎部分に鉄筋を非常に多く使い、その上にユニットプレキャストコンクリートをセットしなくてはならない。図面と基本工程表も添付されていたのですが、これで本当に出来るのかと思いましたね(笑)。後で、設計図書を見て調べたのですが、これを見て構造上更に驚きました。これは上の階も更に難しい!と。

 


【三鷹天命反転住宅の基礎部分】

ABRF どういった意味で難しかったのでしょうか?

大川 三鷹天命反転住宅は規模は小さいながらかなり様々なものの集約的なものなんですよ。というのは、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、プレキャストコンクリート造、壁式構造、そういったものが全て入っているんです。器は小さいけれども、少しずつ全て入っているんですよ。

また、ジョイントやコネクションに関しては新しい工法が入っています。ユニットプレキャストの足元を固定する工法が、通常のアンカー工法と違って、新しいネジ式でとめたり、グラウト注入をしたり、機械式ジョイントという工法を採用しています。さらに、そのアンカーが通常なら一つの柱に対して、通常8本多くて10本ぐらいなのですが、ここはなんと369本入っています。ウワ一って思いましたよ!

僕はあれをピタって納めるにはどうすればいいかといろいろ悩みまして、小坂に無理を言って「アンカーフレーム作らせて下さい」だの「ジョイントのアンカーではこんなんでは納まりません」だの言って喧々諤々やりました(笑)。

 


【機械式ジョイント工法】

◆イメージをつかみとるために ~芸術家アラカワとの格闘~

 


【竹中工務店 小坂さん】

小坂 当初は先生と仕事をしていく上で様々な戸惑いがありました。なかでも一番先生の言葉で分からなかったのは、床が“うねっている”という単語です。そこに日本古来からあるタタキを使いたいというご希望があったのですが、このうねっているという感じが設計図によるものではなく、感覚的な表現でして、その根拠を伺うと、大きなうねりと小さなうねりが混ざっていて、大きなうねりは大人の土踏まずの勾配で、小さなうねりはお子さんの土踏まずの勾配になっている、ということでした。というのも、別のプロジェクトで土間の代わりにフローリングを採用したのですが、それが逆に、滑りやすかったり急激な段差になったりして意図されない効果が生まれてしまったと考えていらっしゃったからです。またタタキの材料については、当初は先生は本物というか、昔使われていた本来のタタキにこだわりがありまして、でもそれはコンクリの上に使えるものではないので、それに見合った材料を使いましょう、という提案をしたのですが、そこにどうも行き違いがあったようです。それは、私たちが出した見本が、四角いチップだったんですが、先生はその四角いチップをタイルのように敷き並べて使う材料だと理解されたようです。

ABRF どのように解決されたのですか?

小坂 大川と考えて、まず実際に作って、見ていただくという手法に切り替えたんです。先生と我々の間で実際に現場でやってみて、実際に使うものを見ていただいて、先生の細かいニュアンスを我々がフィードバックしていく方法を計画いたしました。これは「試作施工」というものです。今考えると気が遠くなりそうですね。

大川 このころは我々の考えが先生にご理解いただけないというジレンマが常にあって、「先生違います!我々はこういうことを考えています!」といっても、やはり言葉では伝わらない部分が非常に多く苦しかったのです。でも作業所において小坂が「試作施工」にGOを出してくれたので、本当にやりやすくなりました。

ABRF 手間と時間を考えるとなかなかやれないですよね。

小坂 通常なら、お金がかかります!工期が延びます!とういことで攻め立てると思います。今回そういうことがないといったらウソになりますが、極力そういった方向に近づけなかったというのは確かですね。

◆プロセスの再構築~「試作施工」というやり方~

 


【竹中工務店 大川さん】

大川 ためしに作ってみて、無理、無駄、手もどりがなく、先生の感性とお考え、プランニングを確認したい、ということが今の「試作施工」というやりかたなんですね。ですからあらかじめリーダーから職人の先端まで、「一度仮につけてまた外すんだよ」と、そういうことを言い含めて仕事をしています。ですから、天井を張っても、もし先生のイメージと違えば、すぐに外せるようにしてあります。配管についても、先生はそれまでは図面どおりでいいとおっしゃっていたが、実際に見てウワー!っと驚かれました。でもこれは試作施工であるから、助かったわけですね。なぜかというと中に実際にはまだ線は入ってないし、所々仮に止めてあるという形にしてあるだけだからです。

ABRF 配色を決めるときにも、何回も同様のやり取りがありましたね。

大川 色についても同じですね。カラーバリエーションの全14色を決めるときに、まず見本色を作って先生に見てもらいました。第一回目は14色のうち6色はOKが出ました。第二回目にまた6色がOKが出ました。これで12色です。赤と青の二色は最後まで通らなかったんです。「それでもう一度やらせてください」ということで、先生が帰国される最後の機会に見てもらって、三回目の打合せにしてやっと14色全てにOKが出ました。実際は先生に見せないものも含めて6回試作いたしました。そのときに、そのうちの一つを肌色ではなくて土色にしてくれという案まで出たんです。その時に気づいたんです。これは先生に対して、僕らが決めてくれと言うのではなくて、イメージしているものを僕らが近づいて出してあげる。それで最終的に選択・決定してもらう。例えば「Aはこれこれこういう理由で少し違うものです」、「Bは先生の言ったものです」、「Cは我々がアレンジしたものです」、「Dはまるっきり違いますが基本に忠実にやったものです」というように最低4つくらいはその根拠を出すようにして作成をしています。そういう確認作業を通している間に少しずつやり取りが変わってきた、ということだと思いますね。

 


【色の確認作業】

小坂 今回驚いたと同時に分かったことは、出来上がるものは建築ですが、その作業プロセスは芸術の手法なんです。それはもちろん先生が芸術家ご出身ということもありますが、従来のやり方のように、単純に設計図があればいいというのではなく、ひとつひとつ実際のものを見て頂き、確認し、それと同時に我々自身が先生の気持を理解するというのが、三鷹プロジェクトを作っていく上で一番大切なことだと思いました。

このことを理解して、確実に作業の方向性が決まり、現場の理解は当初よりもはるかにアップしたのは確かです。手間はかかりますけどね(笑)。

2005年7月25日 三鷹天命反転住宅現場事務所にて
インタビューの模様は第二回に続きます