【現場インタビュー】第三回 三菱商事建材株式会社 塩地博文さん ②

前回に引き続き、三菱商事建材株式会社モイス事業部の塩地博文さんにお話を伺います。

 

今こそ「文明都市」が必要

塩地 僕が今回一番言いたいのは、荒川さんの持っている、なんていうかな、現在の街や生活や世界に対する一定のリズムをもったフラストレーションみたいなものが、共有できるんです。で、そういったフラストレーションって、大小は別にして、実は多くの現代人が持っているんだよね。それが共鳴して共振すると、もう一回リメイクしましょうっていう衝動になるんだと思います。

ABRF その究極形態が例えば戦争ですよね。

塩地 ですね。その戦争を起こしたくないと思わせるには、やはり残したい物とか、壊したくない物がなければダメなんだよね。戦争って最大の破壊行為じゃない。だから壊したくない最大規模のものっていえば文明都市になるんだよね。荒川さんのフラストレーションの打開策というのはそういう方向にあると思う。

僕もその唯一の手段は建築だと思うよ。建築以外にないんですよ。そもそもそうだったんです。科学技術の広がりとか叡智の結晶を示す物は、大昔から土木工学を含めた建築なんですね。その際たる物はピラミッドです。構造力学、材料工学の粋を集めた技術の結晶です。

例えばこういうことなんですよ。エジプトのピラミッドでは、同じ石材を使うにも、構造を支える石は、切りやすかったり運びやすいもの、だけど遺体を安置する間は「御影石」という固くて重い石で出来ていて、使い分けられています。なぜ御影石なのかというと、ミイラ化するように、御影石から発生するマイナスイオンが活用されているなんて説があるんです。そういった当時の多くの技術、アイデア、知識が全てピラミッドに集約されているんですね。全ての材料を知悉して、何百年や何千年にも渡って自分たちの文化とか権威とか知性とかそういったものを全て見せてきたわけですよ。それがあるときからショーウインドの向こう側にいってしまって、それが経済行為としての芸術になってきたということを、どう打開するかといったら建築が一番分かりやすいんですよ。

 

建築における「時制」

 


【エコビルド展にて】

塩地 三鷹の住宅についても、なぜ色があんな色なのとか、丸なのとかあるけど、そんな問題じゃないんだと思う。

結局、人が芸術や建築をなぜに希求するかっていう意味を、もう一度考え直さないと、荒川さんのやろうとしていることは分からないんだよね。ここら辺の解説が一番抜けていると思う。そこの解説が抜けてしまうと、ただ、「荒川さんのデザインって面白いねー」てだけで終わっちゃう。自己満足ですね。それはね、建築でやってはいけないんです。建築は住む人もいるし、いつか解体もするわけだから、変なもの作ったらまた地球へのご迷惑になるし。そしてその迷惑が時間を持つんですよ。こういう言い方のほうが分かりやすいかな。迷惑に「時制」が生まれるのが建築なんですよ。現在の責任だけじゃなく、未来や過去にも責任を果たさなくてはならない。今まであった基礎技術を結集して、過去の英知も十分に理解した上で、何十年も何百年も何千年にも未来に渡る造形物をつくるわけだから。でも今の建築は時制を無くしてしまったのかもしれない。だから作った瞬間にそれは消耗品であり、潜在的な廃棄物なんですよ。いつも壊すばっかりでしょ。全部ゴミになっちゃう。なんて馬鹿な事をやっているのかってね。(笑)もし荒川さんが自己満足でやろうとしているのなら、建築の世界に来ないでくれという人は結構いると思うんですよ。

でも僕が思うのは、やっぱり荒川さんの作りたいものは、単純にその時消費されるだけの建築ではなく、時を刻む文明としての建築だとおもうんですよね。時間を渡っていく建築ですね。

ABRF もともとピラミッドが持っていたような、文化、文明につながる建築にしたいということですか?

塩地 絶対そうだと思う。そういう文明に対して、リアルにつながる技術や部材を提供する事が今回のプロジェクトだったんだと思います。そういった意味では我々の目指す方向とやはり一致したんだと思う。

 

人が好き、地球が好き。もうそれしかない。

塩地 あの、なぜ荒川さんがこんな事を始めているのか、っていうことがあると思いますが、僕が思うのは、荒川さんは人が好きなんです。つまるところ、これに尽きるんですよ、彼は。でね、人が好きになったら、どうしたって地球が好きになっちゃう。こんな話、子どもっぽいかな(笑)。
でもね、人が好きで地球が好きって事以外に、人が立つ原点はもうないよね。環境を究極的に破壊していって、食糧危機にエネルギー枯渇、これからずっと内向きの時代が続くわけです。そういった中で荒川さんのようにシンボリックに何かを打ち立てて、人や地球が好きになるようにみんなを喚起していかないと、この過密地帯の中で平和に生きる方法って実はないんじゃないかと思うんです。

例えば昔ながらの古民家ってありますけど、茅葺屋根とかああいった建物は地球が好きじゃなきゃ建てられないんですよ。身近にある石だとか葦だとか藁だとか木だとか、観察したり触ったりしながら、材料を理解していくその膨大な作業に支えられているんです。木だって、切り取った後、どんな場所に置いたら乾燥が進んでいって、いつ頃から建築材料として利用できるのか、なんて事、一世一代じゃ無理ですよね。好きじゃなきゃ使えないんですよ。そういった思いが綿々とそして広大な知恵の塊となって家になるんですよ。材料工学なんて大げさに言わなくていいんです。知恵ですよね。そういう知恵が積層していくんです。

だから荒川さんの建物で言えば分かりやすいのはキッチンだよね。部屋の中央においてあるあのスタイルなんて、昔ながらの囲炉裏と同じだよね。囲炉裏を中心におくと料理と暖房の両方の意味がある。その立ちこめた熱気は家を暖めて、それをみんなで囲んでコミュニケーションを生み出す。で、その原点はどこかって言うと、人が好きで地球が好き。だからモイスの精神と共通なんです。それを政治的アプローチ以外の手法でやれるのは、建築じゃないかな。未来へ発信できる「覚悟を持った提案」、それが建築であると思っています。
それこそ、荒川さんが言い放った「天命反転」ということなのかな。

 


【三菱商事建材 塩地さん】

 
2005年9月9日 三菱商事建材にて(了)