荒川修作 1936年 愛知県名古屋市生まれ
マドリン・ギンズ 1941年 ニューヨーク州生まれ

荒川修作は1950年代後半より「反芸術」を掲げて結成された「ネオ・ダダイズム・オルガナイザー」のムーブメントに一時関わっていましたが、幼少より「死」という与えられた人間の宿命をのりこえようと(=それ以外に生きる仕事はない、と確信し)、1961年にニューヨークへ渡ります。

渡米後、現代美術の巨匠、マルセル・デュシャンと出会います。荒川は自分が試みようとしていた芸術の世界(表象的な図形・記号・言語を用いた精神の世界の表現・創作)をデュシャンがすでに体現し、突き詰めていたことを知り、それを超えるには身体・肉体に向かわなければならない、というテーマを自身に課すことになります。

また、‘62年には公私ともにパートナーとなるマドリン・ギンズと出会い、 ギンズと『意味のメカニズム』プロジェクトを始めます。ギンズは詩人として活動していましたが、荒川との出会い以降は二人の共同作業が活動の中心となってゆきました。『意味のメカニズム』は‘71年にドイツ語版が刊行、同書について、美術評論家の岡田隆彦は「1963年から71年に至るまでの荒川の作品集であるとともに、表題にある通り、荒川が最も深い関心をよせていることがらを示したものである」(荒川修作年譜『現代思想』臨時増刊号より)と評していますが、同書の日本版はリブロポートより、1987年刊行されています。

『意味のメカニズム』は不確定性原理を提唱した物理学者・ヴェルナー・ハイゼンベルクに賞賛され、それを機にドイツのマックス・プランク研究所に招待を受け、多くの物理学者・科学者・生化学者をとの交流が始まり(1972)、時期を同じくして、哲学・科学・芸術の総合に向かう仕事とはなにかについて、思索探求も始めます。なお、『意味のメカニズム』は現在も、数学者やクリエーターのバイブルとして読み継がれています。

70年代、80年代の荒川修作は主に欧米を中心に数々の個展を開催し、美術界の最先端に位置することになってゆきました。

と、同時に一時期ニューヨーク郊外のクロートン・ハドソンに場所を借り、身体を中心とした考察を様々に展開、作品は徐々に平面から立体へとうつってゆきました。’87年にはマドリン・ギンズとの共著『死なないために』が刊行(フランス語版。日本語版はリブロポートより’88年に刊行)されています。

1991年に東京国立近代美術館にて開催された、「荒川修作の実験展-見る者がつくられる場」は、荒川自身が続けてきた身体そして生命への探求結果を周知させる大きな転機となりました。1994年、岡山県奈義町の奈義町現代美術館が開館、恒久設置作品としての「遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体」が完成します。近年、パーマネント展示をうたう美術館が注目を集めていますが、当時は画期的な美術館のあり方として、大変な反響がありました(同美術館の設計は磯崎新、荒川+ギンズの他に作品が設置されているのは宮脇愛子、岡崎和郎)。

「奈義の龍安寺」はシリンダー状の部屋の中に龍安寺の石庭が両壁に設置され、訪れた者の感覚を撹乱し、刺激を与えるのと同時に、荒川の唱える「生命の外在化」を体験できる貴重な構築物です。

1995年、「養老天命反転地」開園。完成後15年以上経つ現在も、決して利便性のよい場所にあるとはいえないにも関わらず、国内外から年間約9万人が訪れています。

1997年には日本人として初めて、ニューヨークのグッゲンハイム美術館にて、大々的な回顧展『WE HAVE DECIDED NOT TO DIE』が開催されました。

2005年、名古屋市住宅供給公社事業「志段味健康住宅科学公園」(現・シティ・ファミリー志段味)が完成。「愛・地球博」に合わせて環境共生都市を謳う名古屋市が実験的に始めた住宅シリーズです。荒川修作+マドリン・ギンズ事務所が基本構想・基本設計を担当しました。

同年秋には、「三鷹天命反転住宅 In Memory of Helen Keller」が完成 。世界で始めて荒川+ギンズが訴え続けてきた「生命を生む環境」「死なないための家」の第一号です。9戸の集合住宅からなり、安井建築設計事務所が設計を、竹中工務店が施工を担当しました。

完成以来、世界各国からメディアが取材殺到し「芸術作品か住宅か」という議論は現在も続いています。また、現代日本のバリアフリー考にも一石を投じ、この住宅の空間について理学療法・作業療法の分野からの考察も重ねられています。

2008年には「Bioscleave House(バイオスクリーブ・ハウス)」完成。ニューヨーク郊外のイーストハンプトンに建つ「死なないための家」第二号です。

近年は主にアメリカを中心に荒川+ギンズを巡る国際コンファランスが開催されており、荒川+ギンズの唱える「天命反転思想」をめぐって、芸術、哲学、科学の専門家・研究者が活発に議論を続けています。